紅葉の季節真っ盛り。筆者が拠点を置く京都は今、どの季節にも増して観光客でごった返している。外国人観光客が多いだけでなく、首都圏等からの国内観光客も多い。それらの観光客の一部は京都市内に宿泊するわけで、宿泊事業者にとってはかき入れ時だ。
そんな時期に、門川大作京都市長から「宿泊施設、新規参入お断り」の言葉が発せられたのは、ある意味タイムリーであった。
2014年頃の「Airbnbブーム」に始まった京都市内の宿泊施設ブーム、その後は民泊のトラブル増大から「民泊違法問題」に発展、「市長によるホテル誘致宣言」をきっかけに「簡易宿所の激増」から「ホテル建設ラッシュ」へと続き、今回の「お断り宣言」になったという顛末だ。
京都市内を歩けばわかるが、現在おびただしい数の建築中の宿泊施設がある。しかし、それらは1~2年前に土地を取得し今建築中というわけで「宿泊施設運営事業者の開業需要」はもうピークを過ぎている。
特に小規模な施設については、完全に「買い手市場」だ。これは観光客やライバル宿泊施設の増減よりも、京都市の条例改正によるところが大きい。
京都市は昨年(2018年)6月の改正旅館業法の施行に合わせ、旅館業施設に対して「駐在義務」を課した。詳細は割愛するとし簡潔にいえば「施設内部に駐在する」もしくは「施設から概ね800m以内に駐在する」ことが必要になった。
これは小規模施設運営者にとっては致命的だ。今まで人を配していなかったり、日中にしか置いていなかった施設に人件費が重くのしかかる。一定の要件を満たした施設は、施設外部に駐在員を常駐させた場所(「施設外帳場」という)を外部に委託することが可能であり、その場合は自社で人を雇うよりは安く上がるであろうが、コストが増えることには違いない。
この条例改正は2020年3月31日まで猶予期間が設けられているので、まだ今は移行期間。すでに運営継続を諦め、賃貸契約を解約、所有物件を売却、という事業者も増加している。その上現在建築中のホテル等の宿泊事業施設が続々と開業する。小規模事業者の事業撤退の傾向は来年度の条例施行に向けて更に増えてくるであろう。
今年の秋以降に限っても主だったものではパークハイアット京都、アマン京都、来年にはエースホテル、変なホテル、メルキュール京都ステーション、……。他にも、三井、JR、プリンス、帝国、東急、バンヤンツリー等名の知れたホテルだけでも数十棟が開業する。「ホテルだらけ」というのも陳腐だが、本当に今の京都市市街地は「街がホテルであふれている」状況であるのが、さらにホテルが建設される。
市長の「新規参入お断り」宣言、遅すぎたように感じる。今後はさらに宿泊事業施設の淘汰が進み、多くの売り物件が出ることが予想される。その内いくつかの物件は住宅用途に変更され、価格もこなれてくるであろう。ホテルの過当競争は、京都で物件を手当てしたい人にとってはチャンスといえる。
京都市、宿泊施設の新規参入「お断り宣言」 急増で誘致方針転換(産経新聞)
https://www.sankei.com/west/news/191120/wst1911200034-n1.html