田中和彦が斬る!関西マンション事情 不定期
田中 和彦

[第169号]「田の字地区」「御所南」等中心部でも供給が活発に~京都マンション市場

2022年06月08日

コロナ禍以前、京都市内中心部はインバウンド需要、とりわけ宿泊事業が急激に増加した。今も新規開業する施設は数多くあるが、その多くはコロナ禍以前に土地・建物の手当を済ませていたもの。2015年~2019年あたりは、土地や建物があれば全て宿泊施設として検討されたと言っても過言ではなかった。

京都市中心部の賃貸マンション相場では40平米の住戸は月額10万円前後。一方、ホテルであればそれはスイートルーム並みの広さで一泊23万円で貸せる。月額にして6090万円。運営経費を差し引いても宿泊事業の方が儲かる計算だ。

そう上手くいくかどうかはさておき、当時はとにかくそんな算盤勘定で宿泊事業をベースに土地価格を計算する事業者が多く現れ、我先にと不動産購入に走った。もちろん、マンションデベロッパーがマンション分譲を基にした土地価格でその競争に勝てるわけもなく、中心部でのマンション用地の仕込みはほぼストップした。

今はどうなっているか?ホテル用地の需要は一部の高級宿泊施設事業者を除いて激減、その結果京都市内の中心部、具体的には上京区・中京区・下京区で分譲マンションの供給が増えている。

今、旬なマンションランキング」の京都(* 30日間のお気に入り登録数)を見ると、100戸未満の10物件のうち「デュオヒルズ京都桂川」(京都市中心部から桂川を渡って西部)と「ローレルコート亀岡駅前」(京都市に隣接する亀岡市)を除く8物件が京都市内中心部のマンションとなっている。

さて、京都市内中心部を表す言葉として「田の字地区」という言葉が使われることがある。「待望の田の字地区で販売開始」といった具合だ。「田の字エリア」と表現されることもある。

この「田の字地区」という言葉はマンションデベロッパーによる造語ではなく、京都市役所内でも使われている言葉。阪急京都線が地下を走る東西の目抜き通り四条通と、京都市営地下鉄烏丸線が走りJR「京都」駅から北へと伸びる烏丸通の直行する四条烏丸を中心とした北側_御池通、南側_五条通、東側_河原町通、西側_堀川通に囲まれ、歴史的都心地区と位置づけられた「幹線道路沿道地区」をそのように呼んでいる。

「田の字地区は資産価値が高い」と言われることが多い。ちなみに上記の「中心部8物件」の内、田の字地区に立地するのは「ジオ京都姉小路」1物件のみ。希少価値は高そうだ。では田の字地区以外が資産価値が低いのかというと、決してそんなことはない。

確かに堀川通の西と東では路線価や賃料相場等も異なり、田の字地区の方が不動産価格は高い。だが南北については四条通~五条通の「田の字地区の中」よりも御池通~丸太町通の「田の字地区の外」となる場所の方が住宅地としての人気は高くなる。このあたりのエリアは京都御苑、一般的には京都御所と呼ばれる広大な公園の南にあることから「御所南エリア」と呼ばれたりする。このエリアにあるのは8物件のうちでは「ライオンズ京都御所南レジデンス1物件のみ。しっかり「御所南」の文字が物件名に含まれている。

ところで、京都在住の人は「田の字地区」をどう考えているか?実のところ、特段に「田の字地区」が特別なエリアとは考えていない。先にも書いた御所南に限らず、田の字地区以外に「高級住宅地」や「歴史ある魅力的な街並み」は他にもある。また、「田の字地区」という言葉自体、不動産業界関係者等は知っている人も多いだろうが、一般の人は「聞いたことがある」が「使わない」言葉だ。「四条通の少し上(かみ)」「堀川御池の近く」と言ったように通り名でいうのが普通で、居住地を聞かれて「田の字に住んでいる」などどは言わない。

田の字地区は大阪方面への利便性が高く住宅・事務所等の需要は高いが、高度規制が厳しく、土地価格との兼ね合いから分譲マンションが高額になってしまうのは事実。しかしマンション価格が高いということが、街の魅力であるわけではない。交通利便性が低くても魅力ある街並みは多い。

京都に限ったわけではないが「人気のエリア」でなくても、魅力も資産価値も高いマンションはある。京都の街はさほど広くもないので、ランキング片手に全物件自分で現地を見てみるのも面白いのではないか?

 

この記事の編集者

田中 和彦

株式会社コミュニティ・ラボ代表。マンションデベロッパー勤務等を経て現職。
ネットサイトの「All About」で「住みやすい街選び(関西)」ガイドも担当し、関西の街の魅力発信に定評がある。

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