田中和彦が斬る!関西マンション事情 不定期
田中 和彦

[第208号]マンション転売と資産形成

2024年01月24日

晴海フラッグが改めて話題となっている。

晴海フラッグとは、東京五輪・パラリンピックの選手村等跡地を活用した、計画人口約12,000人の大規模開発地の分譲マンション。と、詳しく説明せずとも、発売前から何かと話題の本物件、本コラムの読者はご存知の方が多いであろうから詳細は割愛する。その晴海フラッグの第一工区が昨年11月に竣工し、今月中旬から引き渡しが始まった。

で、何が話題になっているか。転売だ。

レインズ(不動産流通機構が運営する不動産会社向けネットワークシステム)を覗いてみると、売物件があるわあるわ。重複している住戸も含め70件以上の売物件が確認できた。販売から竣工引渡しまでの期間が長いと、購入時点とは事情が変わりやむなく売却せざるを得ない人もいるであろう。しかし、この晴海フラッグについては「事情が変わったから売却」と考えるのは無理がある。明らかに転売であろう。

チケットやスニーカー、有名ブランドの限定商品等、人気が高く入手しづらい商品を購入し、利用・使用することもなく定価以上の価格で売却、それにより利益を得る人を「転売ヤー」と呼ぶ。あまり良い印象を持たれていない。「安く仕入れて高く売るのは商売の基本だ」という反論もあるが、一般的な商売は、商品が生産者から消費者に移行する商品流通に貢献をしており、利益はその対価と認識されている。それに比べ、転売ヤーはチケットにしろ限定品にしろ、自ら消費したいと考え購入する人の購入を阻害して商品を入手している。商品の適正な流通を妨げているといえる。それが故に、コンサートチケット等は令和元年からチケット不正転売禁止法により転売が禁止された。(にも関わらず、相変わらずチケット転売は行われているが……。

ところがマンションに関して、筆者が感じる限りは、チケット転売に見られるような非難はあまり聞かれない。むしろ「買っておけばよかった」「羨ましい」、中には「今のタイミングで転売住戸を購入すれば、まだ利益を得ることができる」等々、「転売ヤー」に対する嫉妬・羨望の声すら聞こえてくる。事業主の系列仲介会社からも転売物件の広告が出ており、少なくとも売主サイドとしては「問題なし」と判断していると考えて良い。

チケット転売とマンション転売。これは言い換えると「利益を得るためのチケット入手」と「利益を得るためのマンション取得」だ。このように言い換えると前者に違和感があり、後者に違和感がないのは腑に落ちる。マンション転売によって利益を得ることがそれほど問題視されていないのは、マンション購入の目的が「住むため」から「資産形成のため」へと変化していることに他ならない。

ところで「即転売すれば儲かる物件」は過去にもあったが、売主による買い戻し等の即転売を許さない取り決めがされていることが多かった。しかし、晴海フラッグについてはそのような取り決めもなかった。戸数が多く、販売時期がコロナ禍で先行き不透明であったことから「転売でもなんでも売れればありがたい」と言った気持ちが売主にあったことは容易に想像できる。

晴海フラッグを即転売した方のローン控除や3000万控除がどのように判断されるのかはさておき、一般的なマイホーム転売は所得税等が控除され、転売時には(一定の条件を満たせば)税金が控除される。また個人の属性がそれほど悪くなければ、低金利でほぼ100%借入ができる点だけをとっても、アパート投資等と比べ優遇されていることがわかる。資産形成のための「マイホーム取得」は、最強の資産形成だ。

この記事の編集者

田中 和彦

株式会社コミュニティ・ラボ代表。マンションデベロッパー勤務等を経て現職。
ネットサイトの「All About」で「住みやすい街選び(関西)」ガイドも担当し、関西の街の魅力発信に定評がある。

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