ニッポンの自治体

NO.288
東京都渋谷区初台・笹塚の特徴
東京都渋谷区「初台・笹塚」の特徴とマンション

区内の他のエリアとは、ひと味違う情緒が漂う、渋谷区住民の25%が住まう街

 渋谷区の京王線である「初台・幡ヶ谷・笹塚・本町」エリアは、区内北部の甲州街道(国道20号)や京王線沿線の初台・幡ヶ谷・笹塚・本町地区は隣接する中野区や新宿区に続く密集した住宅商業地区で、初台のオペラシティなどの高度ビジネス街区と渋谷区内の他の街とは趣が異なる下町情緒が混在した独特な住宅街といえる。

 また同エリアは区内でも比較的世帯数・人口ともに多い地域だ。2019年9月現在で、初台は世帯数5004世帯・人口8500人、幡ヶ谷が世帯数1万0346世帯・人口1万6605人、笹塚が世帯数8393世帯・人口1万0242人、本町が世帯数1万4099世帯・人口2万2038人と、渋谷区民の約4分の1、25%が住まう。渋谷区のきわめて重要な選挙区なのだ。

 このエリアの幡ヶ谷台地は、武蔵野台地の東端で渋谷区の北部を東西に延び、北は神田川の谷に面し、南斜面は代々木川・宇田川(渋谷川の支流)に侵蝕され、千駄ヶ谷・代々木・西渋谷の台地に連なる。代々木台地に並んで南に突き出している丘は初台台地(標高約39m)で、この台地の先端である「台岬」に代々木八幡神社が祀られ、境内には縄文時代の遺跡が残るという。

江戸の寒村は明治の京王電鉄開通、大正の関東大震災を契機に住宅地として発展

 徳川家康が江戸城に入った1590年(天正18年)以降も、辺りは江戸郊外の寒村だった。地域を東西に貫通する甲州街道は、江戸・日本橋を起点として東海道と分かれ、日比谷から半蔵門を左折して四谷・内藤新宿・代々木・幡ヶ谷を通って甲府まで道中三十四次、さらにその先の下諏訪で中山道に合流する。宿場は内藤新宿の次が上高井戸だが、幡ヶ谷新町に小休場があったとされる。

 江戸期、甲州街道に並行してつくられたのが、江戸市中の重要な水源・旧玉川上水だ。松平伊豆守信綱を総奉行、伊奈半十郎忠治を水道奉行として1652年(承応2年)4月、庄右衛門・清右衛門兄弟によって着工し、取水口の羽村から42kmの四谷大木戸まで掘割を作り上水を引くという大工事だった。その水路は武蔵野台地の中央分水背を巧みにたどっている。現在の新宿御苑の北東部に水番所があってここから石樋や木樋を地中に埋めて江戸市中に給水した。

 幡ヶ谷も甲州街道沿いを中心に古くから集落が形成されていた。江戸時代末期には豊島郡に属し、豊島郡幡ヶ谷村と称していたが、1878年(明治11年)に豊島郡の一部をもって南豊島郡が設立され、南豊島郡幡ヶ谷村ができた。
 1888年(明治21年)に市制町村制が公布、施行され、翌1889年(明治22年)に正式に合併して代々幡村となり、1915年(大正4年)に町制を施行。代々幡町が誕生した。1914年の幡ヶ谷地域内に京王電鉄開通ならびに1923年(大正12年)の関東大震災を契機に都心被災地から移住した市民の住宅地として発展した。

笹塚駅南口で進む大規模再開発事業

 幡ヶ谷に先んじて1913年に京王線「笹塚~調布」間が開通した笹塚駅がある。現在の笹塚駅は幡ヶ谷、初台への京王新線とそこに相互乗り入れしている都営地下鉄・新宿線の乗換駅だ。
 神田川の支流が本町4丁目から幡ヶ谷3丁目、笹塚3丁目にかけて流れ、かつてその河川に沿って浅い谷になっていた。笹塚1丁目にはかつて玉川上水が西から東に大原、北沢との境界を蛇行しながら縫うように流れていた。が、笹塚駅周辺の一部は開渠のまま残るものの、ほとんど暗渠化されて遊歩道として整備され緑道・公園として整備されている。

 周辺はおおむね住宅街であり、70年代からのアパートやマンションが多い。ひとり暮らしの若年層や学生の住民も多い。甲州街道沿い、笹塚駅周辺はメガバンク3行の支店のほか、小規模な商業ビルや商店などが目立つ。また、新興企業の本社や営業所が多数存在する。かつて、マイクロソフト日本法人本社(現:日本マイクロソフト)、DeNA(ディー・エヌ・エー)も本社を構えていたが、現在は両社ともに移転している。

 京王線、京王新線の高架の耐震工事も終了し、笹塚駅南口周辺地域の商業化は目覚ましい。駅前の京王重機ビルの再開発事業が進められ、旧ビルが解体され新たに21階建て延床面積3万8000平方メートルの大型複合施設としてメルクマール笹塚が2015年にオープンした。1~3階は商業施設で、4階が京王重機本社と渋谷区関連施設(渋谷区立図書館ほか)、5~8階がオフィスフロアで、上層階が総戸数236戸のマンションとなっている。

 また、笹塚1丁目東西、京王線南側一帯は東京都による「笹塚駅南口地区計画」として都市計画決定され、笹塚ショッピングモール21および中村屋東京営業所を巻き込んだ総面積約3ヘクタール、高さ100mの高層タワービルを含めた再開発が予定されている。
 渋谷区都市整備部による計画案は、笹塚1丁目の笹塚駅前南口の京王重機ビルをA街区(前述のメルクマール笹塚)、公団住宅と住友不動産笹塚太陽ビルをB街区、中村屋東京工場をC街区として再開発するという。
 都市整備部が示した「まちづくりの方針」は、笹塚駅周辺エリアを渋谷区の「西の玄関口」と位置づけ、駅南口の大規模敷地を活用し、笹塚地区の諸課題を解決するとともに、拠点整備を推進。これを核として、笹塚地区全体の街づくりを進めていくという。

  • 著者:吉田 恒道
  • (公開日:2020.05.15)
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