ニッポンの自治体

NO.293
東京都渋谷区松濤・神泉の特徴
東京都渋谷区「松濤・神泉」の特徴とマンション

東急文化村の背景にひろがる、日本でも屈指の高級住宅地

 松濤は渋谷駅から文化村通りを登り詰めた東急百貨店本店の西側に広がる一帯で、東京を代表する高級住宅街だ。松濤1・2丁目は渋谷の繁華街からほど近いエリアにもかかわらず閑静な邸宅街だ。かつては紀州徳川家の下屋敷があり、明治時代に旧佐賀藩主の鍋島家に譲渡。鍋島家がここで茶園を開き「松濤園」と名付け、それが地名の由来である。

 その後、「松濤園」は果樹園や農場を経て、鍋島家の本邸が築かれた。その後、東海道線の開通で静岡から良質な茶が大量に届けられるようになって茶園を閉鎖する。お茶の畑だった本邸周辺の土地は200坪単位で分割分譲されることになったのだが、購入するには紹介者が必要であり、政府の高級官僚や軍の幹部、大企業の重役など、いわゆる社会的地位が高いと思われる人が邸宅を建てることになった。そして、現在の落ち着いた住宅街の基礎ができたのである。
 エリアは東急文化村をはじめ、渋谷区立松濤美術館、戸栗美術館などの芸術・文化施設が多い。湧水池のある広大な鍋島邸は第2次大戦敗戦後の華族制度廃止に伴って公園として整備され、現在、鍋島松濤公園として渋谷区によって管理運営されている。

戦後、松濤の会津松平邸を購入、東京都知事の公邸としたが……

 また、戦後の1947年(昭和22年)、松濤にあった松平恒夫氏邸宅を東京都が購入して東京都知事公館とした。そこには戦後の歴代都知事が居住したが、老朽化が激しく、1995年の阪神淡路大震災を契機に建替えが実施され、現在の公館は1997年に12億円を投じて完成した建物である。ところが1999年に就任した石原慎太郎知事以降、だれも入居せず空き家となっていた。
 東京都は、空き家となった公邸施設の有効活用のため、都民向け講演会場や東京都職員の研修施設としても使用した。しかし、施設維持費は年間で約550万円かかっていたため、2008年に土地とともに売却することを決定。
 敷地は2212平方メートル(671坪)。建物は地上2階、地下1階建てのRC構造で、延床面積1886平方メートル、建築面積697平方メートルである。建物の内部には、私的空間である4LDKの住居部分と、公的空間である防災連絡室、会議室があり、常駐職員もいた。
 都は最低価格35.1億円として2014年に一般競争入札を行った。その入札には住友不動産と三菱地所が応札。その結果、住友不動産が43.68億円で落札・購入した。三菱地所の入札額は40.315億円だった。住友不動産によると、今も空き家のままで用途を検討しているという。

 松濤エリアに居住する世帯数は2019年11月現在、1628世帯、人口3151人だ。通学区は全域・渋谷区立神南小学校、同区立松濤中学校である。

忠犬ハチ公と上野博士像

 余談だが、渋谷駅のシンボル「忠犬ハチ公」の飼い主で、東京大学農学部土木教授だった上野英三郎氏の居宅も松濤1丁目だった。
 その忠犬ハチ公没後80年にあたる2015年3月8日、忠犬ハチ公と上野英三郎博士像が東京大学本郷の弥生キャンパス農学部アネックス前に出来ている。以後、ハチ公と上野英三郎博士像が「人と動物の相互敬愛の象徴」として学生たちを見つめている。

松濤・神山町の前面に建つ東急文化村

 東急文化村は渋谷を拠点とする東急グループの中核文化施設としてバブル経済絶頂期の1989年に開業した。発端は1964年に渋谷区立大向小学校の跡地を東急が購入、1967年に東急百貨店本店を開業したことに始まる。その後、東急グループは渋谷地区商業施設開発の戦略の一環として渋谷商業開発のマスタープラン「渋谷計画1985」を作成し、1985年に文化村を東急本店の余剰地に建設することを決めた。

 良質の文化を提供する「発表の場」、新しい文化の育成する「創造の場」、人・芸術・物の交流を促進する「出会いの場」の基本3原則を柱に、コンサートホールで高度なライブ録音が可能なスタジオを備えた「オーチャードホール」、劇場「シアターコクーン」などのほか、美術館、ミニ・シアターの各施設をはじめ、カフェやレストラン、アート関連ショップなどを内包する。
 なかでも日本初の大型本格シューボックス型のコンサートホールであるオーチャードホールは、開業当初から日本最多の楽団員を擁する東京フィルハーモニー交響楽団がフランチャイズ契約を結び本拠地とした。

神山町

 さて、その松濤の北側、東急百貨店本店の奥が渋谷区神山町である。神山町は同区宇田川町と同じように「●丁目」の設定が無い単独町名だ。近年、神山町周辺は“奥渋谷”(オクシブ)とも呼ばれているが、松濤と同じように旧来からの高級住宅街だ。町内西には山の手通り(東京都環状6号線)とその地下に首都高速中央環状線・山手トンネルが走っている。東側を井の頭通りが走っており、それを超えると神南となる。町域にはニュージーランドなどの大使館や日本放送協会(NHK)関連施設も多い。神山町の区立学区は4番から42番まで区役所に隣接する渋谷区立神南小学校、区立松濤中学校である。その他の地番であっても希望すれば前記2校に入学可能だ。

唯一の鉄道駅「神泉駅」

 この松濤エリア周辺の最寄り駅は京王井の頭線「神泉駅」だが、JRや東急電鉄、東京メトロなどが乗り入れる渋谷駅も徒歩圏内といえる。また、渋谷駅周辺は都内でもバス路線が充実している地域のひとつだ。
 エリアの端には山手通りが走り、首都高速にもアクセスが容易なため、クルマで移動することが多い人にとっても至便な街といえる。幹線道路への抜け道に使われている道もあるものの、一方通行が多く、住民以外には分かりにくい地理のおかげで、クルマの往来は少なめだ。

  • 著者:吉田 恒道
  • (公開日:2020.05.15)
渋谷区の学区・子育て情報
親の年収が高い学区を知りたい方

資産価値の高いマンションを探す