神奈川県鎌倉市の特徴
― ニッポンの自治体 ―
厳しい景観法で守られる歴史遺産の街、そして「ロードプライシング」実施
鎌倉市は、横浜市の南西に位置し、東は藤沢市、北西は逗子市と接し、南に相模湾に面した神奈川県三浦半島の付け根に位置する市域総面積39.53平方キロメートルの自治体だ。鎌倉は市内に多くの歴史遺跡を持つ「古都」である。
神奈川県・鎌倉市のマンション
2018年、神奈川県・鎌倉市で販売された新築マンションは583戸で、相場価格は不明。同市内の中古マンション相場価格は2450万円~7840万円だった。
2019年1月現在、神奈川県鎌倉市の人口は、鎌倉市の発表によると17万6369人、総世帯数は8万2163世帯だ。
日本初の武家社会を確立した鎌倉幕府
鎌倉は、日本も古代から中世への転換期において源頼朝をリーダーとする武家が、日本で初めて武家政権を樹立し、それまでの貴族社会に替わる武家の支配を築いた場所だ。
幕府を開いた頼朝は、幕府の組織を整えるとともに都市づくりを開始した。都市づくりがほぼ完成する1232年には「御成敗式目」を定め鎌倉幕府の体制を盤石なものとし全盛期を迎える。鎌倉は名実ともに政治、軍事、外交、文化などあらゆる面で日本の中心地となった。当時の築港である和賀江島を通じて中国の宋や元との交易も盛んに行なわれ、禅宗、禅宗様建築、仏像彫刻、彫漆などさまざまな中国文化が鎌倉に輸入された。それらは長い年月のなかで守り続けられ、今日でも中世の社会を支えた繁栄の歴史と華やかな文化を伝える。
「鎌倉文士」と「松竹大船撮影所」のある住宅都市に
昭和期に入ると、久米正雄などの作家や文人の多くが鎌倉へ移り住むようになり「鎌倉文士」という言葉が生みだされた。1936年(昭和11年)、松竹が撮影所を蒲田から大船に移し大船撮影所が開設され、映画関係者の鎌倉移住者が増えた。
1939年(昭和14年)11月3日、当時の鎌倉町と腰越町が合併し、鎌倉市が誕生した。その後、1948年(昭和23年)1月に深沢村、同6月に大船町を編入して、現在の鎌倉市となった。
鎌倉市では、1828年(昭和3年)の鎌倉山分譲地の開発、1930年(昭和5年)の横須賀線電化などを契機に、戦前・戦後を通じて大規模な住宅開発が行われるようになり、東京近郊のベッドタウンとして発展する。なかでも、高度経済成長期の大規模開発の波は「昭和の鎌倉攻め」と形容された。この時期に起こった鶴岡八幡宮・裏手の「御谷」開発中止を求める、作家・大佛次郎らを中心とした市民運動は、後述する「古都保存法」制定の契機となった。
厳しい景観制限で守られる古都の風情
現在、同市では、その歴史的な意義を鑑み、街の景観を維持するため建築制限がなされている。具体的には、鎌倉駅および北鎌倉駅周辺を中心とした市街地を対象に景観地区を指定し、建築物の高さの最高限度と屋根・外壁の色彩等の制限を定めている(平成20年3月1日決定・告示)。
これに伴い、景観地区において建築物の建築などを行なう場合には、事前に市に申請書を提出し、この制限への適合について、市長の認定を受けることが必要になる。景観法第63条第4項によると、この認定を受けなければ工事に着手することはできない。
検討から実施となるか、「鎌倉ロードプライシング」
鉄道交通網は古くから発達しておりJR横須賀線の鎌倉駅、北鎌倉駅、大船駅のほか、湘南モノレール、江ノ島電鉄が横断する。鉄道が充実している反面、道路網は古都としての開発制限や地形の特性上行き止まりが多く、クルマの交通は限られた路線に集中する。幅員も狭く歩行者・自動車の分離も不十分で、計画道路整備率は県内でも平均以下だ。
道路交通において、交通安全上・渋滞面で課題を抱えており、休日や夏休みシーズンは市内各所で激しく渋滞が起こる。バス路線は地域内を網羅しサービス水準は高いが、この道路面の課題に影響され定時性の確保が課題となっている。また、緊急車両の到達時間の遅れ等、市民の居住環境の悪化を招いている。
このような交通渋滞を抜本的に解決するには、道路や駐車場整備を進めることが必要だが、 歴史的環境の保全などの制約があるため、短期的道路整備は困難で、何らかの方策で自動車交通量の抑制が必要。
そのため鎌倉市は、鎌倉地域の交通問題の解決に向け、2001年(平成13年)から、自動車から公共交通への利用転換を促す、パーク&ライドや鎌倉フリー環境手形などを実施してきた。利用者数は年々増加傾向にはあるものの、依然として土日祝日には慢性的な交通渋滞が発生しており、抜本的な解決には至っていない。
そこで市は、市域を通るクルマすべてに課金する「ロードプライシング」の検討を2013年から始め、検討から具体的な施策に乗り出そうとしている。
具体的には、年間50日から100日程度、週末を中心とした観光で混雑する日中とし、課金額については、日常生活に利用する市民と、来訪者を同額としない案が有力だ。市民の負担については、来訪者への課金の10%程度の負担を想定して検討を進めている。ただ、課金路線や課金方法など具体的な運用など、課題は山積している。
著:吉田 恒道(公開日:2019.12.26)