バブルではなく、堅実派が支えている現在のマンション市況。売れ行き好調は、まだ続く
住宅評論家 櫻井幸雄
マンションの売れ行きがよい現在の不動産市況を「バブル」と呼ぶ傾向が出ている。
しかし、マンションの販売現場を歩くと、バブルとはほど遠い状況が見えてくる。
たしかに、昨年の夏以降、新築マンションはよく売れている。が、売れているマンションの多くは、「価格に割安感のあるマンション」だ。
昨年6月以降、爆発的に売れた東京都町田市の大規模マンションは3LDKが2500万円台からの設定だったし、さいたま市内で人気を高めた大規模マンションも3LDKが2800万円台から。3LDKが3000万円前後で購入できるマンションが注目され、ブームのように見えたのである。
その郊外エリアでは、現在、3500万円以上の3LDKが中心になり、爆発的売れ行きは一段落している。
23区内で山手線の外側や一部山手線内側の新築マンションでも人気を高めたものがあるが、それらも価格に納得感がある物件が中心だ。
マンション人気が高まったのは、テレワークが広まったコロナ禍の影響があるだろう。それは、認めるが、コロナ禍でマンション・バブルが起きたわけではない。
新築マンション販売戸数は少ないまま
今はバブルではない、といえるもう一つの理由は、新築マンションの販売戸数が減ったままであることだ。
不動産経済研究所の発表によると、2020年に首都圏で供給されたマンションの戸数は2万7228戸。2019年の3万1238戸からさらに減り、平成バブルの1990年以降最低の水準だった。
2000年前後は首都圏で毎年10万戸レベルの新築マンションが発売されていたので、驚くほどの少なさとなる。2021年も3万戸前後の発売戸数になると見られ、低水準を維持する見通し。バブルにはほど遠い。
ちなみに、首都圏で毎年10万戸も新築マンションが発売されていた頃、「さすがに1年で10万戸は多すぎる」とされた。適正戸数は6万戸程度ではないか、とも言われた。
ここでいう適正戸数とは、「今年はマンションを買いたい、と動き出す世帯数」を推測した上での数字。首都圏では、毎年6万世帯くらいが、マンションの買い時を迎える。「頭金が貯まった」「第1子が小学校に入る前にマンションを買いたい」いろいろな動機で、「今が自分にとって、マンションの買い時」と考える世帯が、毎年6万世帯くらいなので、年間6万戸くらいずつ新築マンションを発売しているのが適正と考えられたわけだ。
これに対し、現在の首都圏新築マンション発売戸数は年間3万戸レベルまで減っている。ところが、中古マンションの取引は2000年頃とは比較にならないほど増えており、年間3万戸ほど取引されている。
新築3万戸と中古3万戸……合わせれば、6万戸なので、「年間6万戸が適正」という推測値が現在も通用することになる。
今、マンションを買うのは堅実派
結局、今、新築マンションを購入しているのは、こつこつと頭金を貯金し、「自分にとってのマイホーム買い時」を迎えた人たち。堅実派の購入層が中心だ。
堅実な購入者は、多少の障害が生じてもマイホーム購入の目標を変えない。「マイホーム購入を先延ばししたら、家賃を払う時期が長くなる。だったら、予定通りに購入して、家賃の支払いをローン返済に切り替えたほうがよい」と考えるからだ。
堅実な購入層は、郊外でも通勤や買い物に便利な場所で、なるべく安いマンションを購入しようとする。
なかには、都心近くで、将来も値下がりしにくいマンションを買おうと頑張る人もいるだろう。
いずれも景気のよさに浮かれて、「マンションでも買うか」と思い立った人ではない。計画的購入者だ。
コロナ禍の今、堅実な購入者は住戸の広さと設備仕様のレベルの高さを求めるようになっている。よりよいマンションを買いたい、という気持ちが高まっているわけで、それはコロナ禍で家時間が増えた結果だろう。
長い時間を過ごすマイホームだから、少しでも快適なものを選ぼうとしているわけだ。その分、多少都心から離れてもいいし、駅から離れてもよいと考えている。
そういう堅実派が支えているのが、現在のマンション市況。バブルではないので、当然ながらバブル崩壊も起きない。着実にマンションが売れてゆく動きは、まだしばらくは続くと考えられる。
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年間200件以上のマンション、建売住宅を見て回る住宅ジャーナリスト櫻井幸雄。実際に歩き、目で見て、耳で聞き集めた情報には、数字の解析だけでは分からない「生々しさ」があふれている。
この新鮮情報を「住まいサーフィン・レポート」としてまとめて主要マスコミに配布。あわせて、住まいサーフィン上でも公開する。住まいサーフィン上ではレポートとともに、旬の狙い目である新築マンションも紹介。マンション購入のアドバイスとする。
住宅ジャーナリスト櫻井幸雄の経歴
1954年生まれ。1984年から週刊住宅情報の記者となり、99年に「誠実な家を買え」を大村書店から出版。
以後、「マンション管理基本の基本」(宝島社新書)、「妻と夫のマンション学」(週刊住宅新聞社)、「儲かるリフォーム」(小学館)などを出版。
最新刊は「知らなきゃ損する!21世紀マンションの新常識」(講談社刊)。
テレビ朝日「スーパーモーニング」の人気コーナー「不公平公務員宿舎シリーズ」で住宅鑑定人としてレギュラー出演するほか、「毎日新聞」で、住宅コラムを連載中。「週刊ダイヤモンド」「週刊文春」でも定期的に住宅記事を執筆している。
オフィシャルサイト
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