建設費の上昇で、マンション価格が上がったとされるが……。その真相と対応策とは
住宅評論家 櫻井幸雄
マンション価格が値上がりしたのは建設費が上がったから?
不動産経済研究所の調べによると、2022年、東京23区内の新築マンション平均価格は8236万円となった。これに対して、10年前の価格はどうだったか。
今から10年前の2012年、東京23区内の新築マンション平均価格は5283万円だった。10年間で3000万円近く上昇したことになる。
その理由としてよく挙げられるのが、「建設費の上昇」だ。「建設費が上がったので、マンション価格が上昇した」というのだが、果たして本当なのか。具体的な数字を基に検証したい。
鉄筋コンクリート造のマンション建設費(資材費含む)は、現在坪あたり100万円強。10年前、建設費が安かった時代から比べると1.5倍ほどになった。
確かに値上がり幅は大きい。しかし、それだけで都心マンションが大幅値上がりしたとは言えない。
前述したとおり、この10年間で23区内の新築マンションは3000万円弱上がった。これは、70㎡の住戸で換算した数字だ。
では、この10年で70㎡のマンション住戸の建設費はどれくらい上がったのか。
建設費は現在、坪あたり100万円強なので、70㎡のマンション1戸あたりの平均建設費はおよそ2200万円となる。
10年前はその3分の2で済んだため、10年前の平均建築費はおおよそ1466万円。10年間で734万円ほどの上昇である。
つまり、23区内のマンションは10年間で3000万円近く値上がりしたのだが、そのうち「建設費の上昇」による値上がり分は734万円。「マンション価格が上がったのは、主に建設費が上がったため」とするのは、少々無理があるわけだ。
建設費も上がったが、地価も上がった。そして、高くなっても買う人が次から次に現れたことが、マンション価格の上昇を引き起こした、と考えるのが順当である。
ここで問題にしたいのは、「価格が高くなっても買う人が次から次に現れた」こと。高くても買う人がいるから、地価が上がったし、建設費の上昇も容認された。だから、新築マンションの価格が上昇したというわけだ。
となると、今後もマンション価格が上がり続けるかどうかは「さらに高くなっても買う人がいるかどうか」によることになる。
中古価格の上昇は一段落か
東京23区内の新築マンション平均価格は8236万円。しかし、山手線内側を中心とする都心部ではもっと高く、3LDKで1億5000万円以上という水準になっている。
そこまで高くなると、初めてマイホームを買う人が全額ローンで、とはいかない。潤沢な自己資金があるか、もしくはそれまでのマイホームを売ることでの買い替えでないと難しいだろう。
現実的には、高額の都心マンションを購入する人の多くが買い替え層だと考えられる。その買い替え層は、今住んでいる家が高く売れないと、買い替えが実現しない。つまり、中古マンションの価格相場が上がり続けないと、買い替えができないわけだ。
その中古マンションの価格相場だが、コロナ禍が起きて以降、右肩上がりの状況が続いていた。が、その動きに変化が出て、「上がり方が緩やかになった」場所や「横ばいになってきた」場所が目立ち始めている。
そろそろ、中古マンション価格の上昇は一段落かもしれない。買い替えを考えている人は急いだほうがよさそうだ。
マンション購入の主役は、一次取得層に
中古マンションの価格上昇が止まれば、高額化した都心新築マンションの売れ行きにも陰りが出るだろう。ただし、売れ行きが鈍っても「都心マンション暴落」のような事態は想像しにくい。理由は、都心部において新築マンションの物件数が減っているからだ。
今後も増える可能性は薄いので、都心マンションの希少価値は高いまま。なので、売れ行きが落ちても、慌てて値引きする不動産会社はいない。売れなければ、売れるまで待つ。もしくは、当面、賃貸マンションとして活用し、状況が変われば中古マンションとして売ったり、賃借人付きでファンドに売却したりするといった戦略が考えられる。
都心マンションは高止まりし、取引は減る……それが、今後予想される不動産市況となる。
今後予想されるのは、プレイヤーの変化だ。
買い替え層の動きが鈍ったとしても、初めてマイホームを買う層の動きは変わらない。結婚してマイホームを買う若い2人、子供が小学校に入るのを機にマイホーム購入を決断するファミリーは、どんなときでも家を買い、その多くが新築マンションを購入する。
東日本大震災の後でも、リーマンショックの後でも、もっと遡れば、平成バブルが弾けた後でも、初めてマイホームを買う人たちはマンション購入をやめなかった。
理由は、マイホーム購入に向けて、時間をかけて準備をしてきたから。そして、「購入しなければ、賃貸暮らしとなり、その家賃がもったいない」とも考えるからだ。
その結果、今後のマンション市況は、郊外物件が取引の主体になる可能性がある。3LDKが4000万円台、高くても5000万円台で購入でき、2LDKならば3000万円台からの予算で購入できる新築物件だ。
それらは、高額の都心マンションよりも建築費上昇の影響を強く受ける。1戸当たり2200万円もの建築費をかけたら、4000万円台の3LDKはつくりにくいからだ。
そこで、さらに駅から遠いマンションが増えたり、住戸の面積を下げる、設備を省く、ということが生じかねない。
「建設費の上昇で、マンション価格が上がった」と言われた時代が終わり、今度は「建設費の上昇で、マンションの質が落ちる」時代が始まるかもしれないのだ。
初めてマイホームを買う人も急いだほうがよい。そう言わざるを得ない状況なのである。
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年間200件以上のマンション、建売住宅を見て回る住宅ジャーナリスト櫻井幸雄。実際に歩き、目で見て、耳で聞き集めた情報には、数字の解析だけでは分からない「生々しさ」があふれている。
この新鮮情報を「住まいサーフィン・レポート」としてまとめて主要マスコミに配布。あわせて、住まいサーフィン上でも公開する。住まいサーフィン上ではレポートとともに、旬の狙い目である新築マンションも紹介。マンション購入のアドバイスとする。
住宅ジャーナリスト櫻井幸雄の経歴
1954年生まれ。1984年から週刊住宅情報の記者となり、99年に「誠実な家を買え」を大村書店から出版。
以後、「マンション管理基本の基本」(宝島社新書)、「妻と夫のマンション学」(週刊住宅新聞社)、「儲かるリフォーム」(小学館)などを出版。
最新刊は「知らなきゃ損する!21世紀マンションの新常識」(講談社刊)。
テレビ朝日「スーパーモーニング」の人気コーナー「不公平公務員宿舎シリーズ」で住宅鑑定人としてレギュラー出演するほか、「毎日新聞」で、住宅コラムを連載中。「週刊ダイヤモンド」「週刊文春」でも定期的に住宅記事を執筆している。
オフィシャルサイト
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